警視庁、警察庁、そして防衛庁…。「あさま山荘事件」「ひめゆりの塔事件」等を経て国家レベルの危機管理を最前線で率いてきた佐々淳行が書き連ねる、「危機管理」の心構え。過去の事件を例としてリスクマネジメント、いや、事故が起きてしかも不可抗力的に進んでいく場合の「クライシスマネジメント」が重要だと訴える。テロリズム、震災、新型ウィルスのパンデミック、そして戦争。予想し得る(予想し得ない)最悪の事態に備える必要性を再認識する今の時代に、読むべき一冊なのではないかと思う。
「今ドキの若いもん」「ゆとり」「ドゆとり」「平成生まれ」
1989年(平成元年)生まれの私、見事に当てはまります。
著者も「平和ボケしている最近では~」みたいなこと書いてましたが、残念ながら否めないです。
あらためて自分が生まれる前、血生臭い歴史を持っていたのだと痛感しました。
ただ尻が青いながらも自分が生きてきた平成も言うほど平和ではないです。「阪神淡路大震災」「地下鉄サリン事件」「神戸児童連続殺傷事件」「9.11」「附属池田小事件」…そしてこの本の後に、「御嶽山噴火」「東日本大震災」が起きています。
いつ起こるか分からない自然災害はもちろん、サリン事件やハイジャックのようなテロ事件に今後自分が巻き込まれないとは限らないです。
「最悪の場合を考える」
備蓄ももちろん大事ですが、前提はコレだと思います。
この本の魅力
著者がすごい
著者:佐々淳行(1930-2018)
警察や防衛庁のエライ人、なんて紹介をするとめちゃくちゃ怒られそうだけど、肩書が多い。
だけど、この方の凄さは肩書きやステータスじゃなくて仕事(=国民を守ること)に対する熱量がすごいのです。
そのため、危機管理が全くできていない人間(社長や官僚や閣僚やら)に対して辛口評価は辞さないし、逆にあっぱれな行動を取る人を大変称賛しています。
個人的には、各方面から反対を喰らいながらも北朝鮮の工作船を展示すると決めた当時の扇千景大臣を痛快なほど評価していたのが印象的でした。
リーダーのあり方
佐々淳行さん自身も指揮をとる立場でしたが、さらに上には当時の後藤田官房長官や内閣総理大臣もいます。
ちなみに後藤田長官も危機下において素晴らしいリーダーシップを発揮する方でした。
というか後藤田さんのWikipediaも読み応えがあるのでぜひ一読をおすすめしたいです。
後藤田正晴Wikipedia
(繰り返しになりますが特定の政党を応援しているとかそんな意図はないです)
正直に言って小難しいことはなく、「人のために動く」「当事者意識を持つ」ことなんだと感じました。
そして「出した指示(命令)は戻さない」こと。
少なくとも、有事のときにゴルフを切り上げず仕事に戻らないとアウトです。
(絵に描いた出来事が本当にこの国で起こっているのだからすごい)
異常なし報告
警察だと当たり前なのでしょうか?
たしかに、時々領事館とかの前を通ると「異常ありませんでした!ピシィッ」と護衛に当たる警官さんの交代を目の当たりにすることがあります。
「異常ありませんでした!」を本当にそう言っているかは聞き取れなかったけど、そんな感じでした。
でもこの習慣は大事だと思いました。
特に佐々さん、ご子息様にも「異常なし報告」をするように言っているくらいです。
遠く離れて暮らしていて、例えば大きな地震があったとしたら。
連絡がなかったらご家族は心配になりますよね?
でも、真っ先に「異常ありませんでした!」と報告を受けたら安堵もしますし、次に考えることは捜索ではなく何か必要なものはないか?など行動も変わってきます。
この「異常なし報告」はぜひ家庭でも個人でも取り入れたいものです。
3.11のときはメールや電話だとすぐにやり取りができませんでしたが、今はSNSがあります。TwitterやFacebookってこういうとき役に立つな・・・とふと思いました。
他にも見習いたいリーダーの方がずらり
佐々さんも書いていたのですが、やらかした人間はとことん責任を追求して報道するのに、未然に防いだり最小限の被害で抑えたりした人間はなぜもっと表に出ないのでしょう。
阪神淡路大震災のときの日銀神戸支店の対応もすごかったです。なにせ真っ先に現金を用意できるようにしたのだから。
その支店長さん、関東大震災のときのことを思い出したそうです。それですぐに対応したといいます。
また、地下鉄サリン事件の被害者の受け入れを決めた聖路加国際病院の日野原院長も英断を下されたと思います。
いっぱいいっぱいの状況のときに「そういう判断を自分はできるか」と考えてしまいます。もしくは、上司に向かって進言できるか、です。
大事なのは規則や法律以上に、人命であること。そして人命に責任を取れるか。
最後に
日頃全く見えて来ない国家レベルの危機状態のときのトップたち(もちろん内閣総理大臣や官房長官)の様子が事細かに書かれていて迫力がありました…。
自己保身しか考えないタヌキというイメージがどうしても強いのですが、国民を守るためにこんな動きをしているのか…と見えないところが見えたようでイメージが少し明るくなりました。
佐々さんも後藤田さんも既に亡くなられていますが、戦後の日本の基盤をこうやって作っていったのかと思うとその功績に頭が下がるばかりです。
月並みな感想ですが、読んでよかったです!
ご自身で「噛みつき」と分かっている佐々さんのアツい口調を間近で聞いているような感覚です。ただ好き嫌いはあると思います(ちなみに私はキライじゃないです)。
もともとは雑記でプチレビューくらいに書こうと思ってましたが、各先人たちのWikipediaが想像以上に面白くて少し長くなりました。
事件の緊迫した様子が伝わってくるのも魅力!
おまけ(追記)
読了後、『ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎』を読むとちょっと面白いです(※もちろん、内容はフィクションです)